共有スペースと執念の話
こんにちは青木遊です。
いつぞやの記事にて、うちのスクールには、
他の会社の方々も使用できる「共有スペース」なるものがあり、
その共有スペースでは珍事件が時々発生すると書きました。
今日はその珍事件について書きたいと思います。
今日の記事は長いです。ご覚悟くださいませ。
あれは確か、1月半ばだったのことだったと思います。
私がスクールで自習をしていると、
ある先輩の悲劇を聞かされたのでした。
「先輩のNさん、共有スペースのソファー席座ってる時、壁とソファーの間にスマホ落としたらしいよ」
あーそれは残念。買ったばかりのスマホだったら、傷がついたり汚れたりして、さぞ悔しかったことでしょう。
「で、そのソファー、移動できると思ったら、壁に打ち込んであって固定されてるから、そのスマホ、もう取れないらしいよ」
シェイクスピアも衝撃な悲劇である。
これを教えてくれたのが、スタッフさんだったか、同期の友人だったか覚えてない。
いや、わからん、多分、多分だけど、スタッフのYさんから聞いた気がする。
共有スペースのソファー席に行ってみると、
生気を失ったN先輩が項垂れているではないか。
「え、スマホ、取れないんですか。。。?」
「取れないらしい。いや、もう、諦めた。さっきdocomoにAのスマホ借りて電話した。新しいの買う。」
ソファーと壁の間を覗き込むと、無残にもわずかなスペースの間に横たわるNさんのスマホが見える。
一旦先輩と一緒に私も教室に戻り、
しばらく作業をし、
休憩がてら本を読もうと、再び共有スペースへと向かった。
するとあのソファー席で、
どなたか存じませんがスタイル抜群の綺麗なお姉さんが、
いろんな小道具を脇に置いて何やらやっている。
先ほど私が覗き込んだのと同じように、
ソファーと壁の間の床を見つめているではないか。
そしてお姉さんは電話をかけ始めた。
「あ、お疲れ様です○○ですー。あの、2Fのソファーなんですけど、これって動きませんでしたっけ?ちょっと××さんに確認お願いできますか」
!!!!!!
「お姉さんお姉さん!すみません!」
思わず渋谷のキャッチの如く私はお姉さんに話しかける。
「はい?」
「このソファー、動くんですか!?」
「それちょっと確認中ですねー」
私、急いでスタッフのYさんに、
“立場的誰だかよくわからないけど、本社の人っぽいってかこのビルの管理ポジションの人っぽい人が、ソファー動かせるか確認とってますよ”
という旨のメッセを送る。細かい内容は忘れた。
スタッフのYさん、急いで共有スペースにきて、お姉さんに挨拶する。
「先ほどはありがとうございました!動かせそうですか?」
「あーどうも。いやー、なんとかして動かしたいですね。先ほどお電話いただいた男性の方のスマホ拾いたいのと、その方のスマホを取ろうとしたら、私のスマホも落ちたんですよね。」
私とYさん「え’’ぇぇぇ!?!?」
タイタニックを見た時よりも泣きそうである。
私とYさんしばらく絶句。
けれどもYさんもYさんで仕事があるので、
お姉さんへのささやかな応援の言葉を残してこの場を去る。
私は私で本読みたいし、なんかこのお姉さんほっとくのもなと思ってこの場に残る。
と言っても、もちろん私にできることは何もない。
チラチラ様子を伺うことしかできない。
お姉さんは、たまにどこかに行く。
そしてまた別のいろんな小道具を抱えて戻ってくる。
長い針金のようなもので、
落ちたスマホをすくおうと一生懸命頑張っている。
見守る私。
心の中で(さすがに針金では無理だろう)と呟く。
お姉さんは疲れてため息をつき、
時々私に話しかけるようになった。
「いやぁ、悔しいですね、これ。取りたい。」
「いやもう、うちのスクールの人のスマホのために、巻き添え食らわせて、なんかすみません」
なぜか私が謝罪する。
「その男性の方はどうされてるんですか?」
「さっき、諦めてdocomoに電話したって言ってました」
「え!!!信じられない!!私は絶対諦めない!!!!」
私は生まれて初めて、目の前で、
執念に燃える女性の目を見た。
「なんか必要な小道具他にありますか?うちのスクールのスタッフさんに、使えそうものあるか聞いてみます」
私は恐る恐る提案してみる。
「え、本当ですか!?なら、、、、、長くて硬い棒のようなものをお願いします!!」
「長くて硬い棒ですね。かしこまりました!」
教室に戻るなり私はスタッフスペースへと駆け込む。
スタッフスペースには、先ほどのYさんと、別のスタッフのCさんがいる。
Yさん 「あの女性の方、どうなりました?」
私 「諦めないそうです。」
Yさん&Cさん 「「え’’ぇぇぇぇ!!!!」」
私 「あの、硬くて長い棒、ありませんか?」
Yさん&Cさん 「「硬くて長い棒〜〜〜〜〜?????」」
綺麗にハモってお二方、裏の倉庫に向かう。
ついていく私。
扉の前でしばらく待機してると、「これならあった」とCさんカムバックする。
CさんがYさんに渡したもの、それは、
トングだった。
「硬くて長い棒、うちにはこれしかないね」
Cさん颯爽と去っていく。
硬くもないし、長くもない。
Yさんトングを見つめる。そして一言。
「パスタか。」
私吹き出す。
向こうでお姉さんが決死の思いで私に託した「硬くて長い棒」を待っていると言うのに、私は教室でYさんとケラケラ笑っているのである。
「これ、絶対いらないと思いますよwww」
「まあ、とりあえず、、持ってったら良いんじゃないですか。。。笑」
これほどまでに不要な「とりあえず」を、私は知らない。
そう言われて私はトングを持って教室を出る。
なんだこれ。どういう状況。なんで私トング持ってんだ。
てかそもそもこの学校、逆になんでトング置いてあるんだ。
例のソファー席に向かうとお姉さん、電話していた。
会社の携帯か何かなんだろうと思った。
「いや、もしかしたら大丈夫かもですね、今2Fの別の会社の方に長い棒持ってきてもらってますのでそれ待ち、、、、、待って。トング持ってきましたね。いや、すみませんやっぱお願いします、トングじゃ取れないです。はい。はい。はいお願いします、はい、はい、はい失礼しまーす。」
電話を切るなりお姉さん、苦笑して言う。
「トングか。いらないな。」
ですよね。
私は気まずそうにトングをカチカチ鳴らして脇に置く。
お姉さん、また長い針金で頑張り始める。
そしてお姉さん、何かを突然閃いた。
「そうか!!!あいつに電話すれば良いんだ!!!使えるかも!!!そうじゃんそうじゃん電話ってあああああああああ!!!!その電話がそこに落ちてんだったあああ!!!!」
お姉さん項垂れる。
私思わず吹き出す。
ふと視線を脇にやると、あのトングが目に入る。
Yさんの「パスタか。」が脳裏再生し、爆笑寸前状態になる。
このお姉さんを横に爆笑なんて言語道断である。
私は必死に本に書いてある文字を追いかける。
お姉さん、また疲れて私に絡んでくる。
「お仕事は何してるんですか?」
「そこのプログラミングスクールの学生なんです」
「あ、学生さんか〜〜〜〜」
学生、という言葉だけでお姉さん、私をだいぶ年下だと判断したらしく、
急に私への言葉遣いが子どもを扱う口調になる。
「そっか〜〜〜〜偉いなあ。何の勉強してるの〜?」
いや、あの、学生って言っても間違いなくお姉さんより年上で私、、
いちお社会人で、、、、、、、
って真実を告白しようとしたけど、戦闘中の今のお姉さんにとっては私の基本情報なんて、鬼クソどうでも良い話でしかない。
「プログラミングです」
「へえ〜〜〜!すごーい!てか、ごめんね付き合わせて。本読んでな〜!」
言われた通り、私は再び本を読み始める。
読み始めたは良いものの、もう横が気になって気になって本の内容全然入ってきやしない。
「お姉さん、すみません、授業始まるんで、失礼します。何もお役に立てなくてごめんなさい」
「全然良いよ〜〜!授業頑張ってね!!」
「ご武運を。」
自習を終えて、帰りに共有スペースを覗くと、
さすがにもうあのお姉さんはいなかった。
ソファーの背もたれの奥を覗こうかと一瞬思ったけど、
なんとなくやめといた。
==数日後==
これも誰から聞いたか覚えてない。
Yさんだったっけな。。。逆かな。私がYさんに結果を伝えたんだっけな。
とにかく数日後、誰かが私に言ったのである。
「あのお姉さん、携帯取り返したらしいですよ。」
執念の勝利!!!!
ちなみに先輩Nさんのスマホはあそこに永眠したらしい。
お姉さんのスマホにはフィンガーリングがついていたため、
棒でフックを作ってそれでひっかけて取れたらしい。
あーやっぱYさんから私が聞いた気がするな。
このフィンガーリングのくだり。。
違ったかな。
兎にも角にも、いやはや、私は脱帽である。
これから何かに取り組んでいる最中、心が折れそうになった時、
あのお姉さんの言葉と目を思い出したい。
「私は絶対諦めない!」
共有スペースでの珍事件である。
青木遊