意志のあるご機嫌
最近はもっぱら自炊にはまっている。
自炊に限らず、自分の住んでいる環境をいかに快適にするかが
テーマとなっている、と言ってもいいだろう。
これはいわば自分の中で勝手に立ち上げた「ご機嫌計画」なのである。
ご機嫌、という言葉を意識し始めたのはいつからか忘れてしまったが、
毎日ご機嫌でいる人は魅力的だなあ、かわいらしいなあと
物心ついたときからふと自分の意識の中にあった気はする。
それはおそらく昔から漫画やアニメが大好きだった頃の名残があるからなのだが、
その中でも私の人格形成にかなりの影響を与えたキャラクターが2人いる。
そしてもう1人は『GALS』という漫画の寿蘭である。
本田透は、幼い頃に両親を亡くし、そこから自らアルバイトと学校を行き来する健気な女子高生なのだが、ひょんなことで学校のアイドル的な存在である草摩一族の秘密を知り、関わることになる。
ここでいう秘密や細かい設定などは直接確認してもらえればと思うが、
要はこの草摩一族の人間たちはその秘密ゆえにそれぞれが何かしらのトラウマを
抱えていて、本田透はそんな彼らのトラウマを持ち前の明るさや優しさで解きほぐしていくのである。
小学生高学年から中学生にかけてこの漫画に出会い、そして愛読していた私にとって
この本田透の優しさは憧れだったし、強さだとも感じていた。
彼女はその境遇から、最も悲劇のヒロインを演じられる可能性があるのに、
彼女の言葉からは「いろんなおにぎりの具が存在し、愛されているように、自分では気づかないだけでその具がどこかでは魅力的に映って愛されているかもしれない」と口に出来てしまう温もりが感じられる。
こうして真っ向から彼女の影響を受けた中学生の私は、常に笑顔でポジティブに振る舞う彼女を見習って、せめていつもニコニコできるような人間になろうとしていたのはここだけの話である。
そして自分の中で興味深いのは、このいわゆる母性に近い明るさ、優しさを持つ本田透とは打って変わって、「恋愛!!友情!!遊び!!」に全力投球し、おそらく本田透と同じ学校だったとしても決して同じグループには所属しない寿蘭というイケイケ女子高生にも多大なる影響をもらっているというところだ。
寿蘭に出会ったのは、もう少し遡りちょうど小学生低学年から中学年くらいのときである。
「勉強きらーい」「109大好き~!」「チョベリグ」が口癖のメッシュをかけたボブのパーマスタイルの寿蘭のどこに惹かれていたかといえば、きっとそれは「自らの中で筋を通して生きている」ところなのだと思う。
言いたいことを言うかわりに相手の話を聞く、
やりたいことをやるかわりに相手にも強制しない、
自分が一度仲間だと思った相手は最後まで信じ、守ろうとする、
そんな寿蘭の人柄もまた本田透とは違う強さだが、
かっこいいと思ったのである。
それこそ、彼女に影響を受けたことで私は
ある意味で怖いもの知らずで衝動的に突っ走る部分を持ったと認識している。
おかげで中学2年生の夏休み直前に好奇心で金髪に染め、忘れ物を取りに学校に行ったことで教師陣からあの真面目な子がグレてしまった…とちょっとした騒動を起こしたり(染めるタイミングをミスった)、大学生のときにはサークルのイベントのためにある大企業の社長にこの場所を貸してください、と周囲も青ざめるような直談判をしたり、結構ノリと勢いで突っ走る寿蘭イズムを見事に受け継いだと思う。(結果として会場は借りられた笑)
そんな2人と思春期の時期に出会った私は、他者を思いやる強さと自分を貫く強さという異なる強さを共存させようともがいていたような気がする。
今でも共存しているかは不明だが、少なくとも自分で自分の機嫌を取れるくらいにはなっているような気がするので、意志あるいは思い込みの力はやはり絶大である。
少なからず、自分に余裕のないときは私の中の本田透が周囲に対するありがたさを痛感させ、自分の調子が良い時には私の中の寿蘭がこれでもかというエネルギーを放出させている。
おそらく誰の中にもそう言った共存しえないようで共存している存在があるのではないか。
そう書きながら、今私は彼女がいるくせに誘ってくる男友達に寿蘭ばりに
「うるさーーーい」と蹴散らしている。今日も平和である。